2022/08/09

 

 毎日本当に事件ばかり起きる。暴力や暴言、セクハラ、患者同士の喧嘩、何より依存対象物へのスリップ。この間は患者が外出をしたまま何日も帰ってこないということもあった。良くも悪くも飽きないけれど、なかなか大変な現場だと思う。

 毎日のようにどこかで揉め事が起こり、怒鳴り声や泣き喚く声が聞こえる。また休憩時間も相談の電話で息つく暇もない病棟には、ワン切り電話で終わらず、時には特定のスタッフを名指しにした「死ね、殺すぞ」など脅迫まがいの電話もある。過去にはスタッフに対するストーカー行為もあったらしい。本当に世の中には色んな人がいるんだなと思う。人間って感じがする。

 勤務している病棟はほぼ任意入院の患者しかいない。なので、患者が希望すれば自己判断での退院が可能になる。治療を中断、退院していく患者には医療者間との意見の食い違いやすれ違いによって怒って退院していく人も多い。いつもその背中を見送るのが本当にさみしい。やりきれないものがある。「いくら頑張っても治んないしさ、家族にも嫌な顔をされるしもう死ぬんで!じゃあね!」、と無理やり明るく振舞いながら病院を後にした患者。入院当初、危険物確認のために彼女が持参した私物のセリーヌのバッグの中身を漁っていると、中から依存症関連の書物やレジュメが大量に出てきた。中身には付箋や折り目、メモ書きがびっしり残っており、スリップをしては入退院を繰り返す彼女が、彼女なりの努力で必死にどうにかこの状況を変えようと、病気を治そうと努力してきたことが窺えた。病院を去っていく後姿を見つめながら、私はその光景を思い出して本当に悲しくなってしまった。行かないでほしいと本当は言いたかった。

 特効薬がないこの病に、より多くの回復への筋道があればいいと思う。本当にそう思う。孤独の病といわれている依存症だけれど、人はみんな孤独だから。誰がなってもおかしくないのだから。彼女が本当に死んでなければいいと思う。「“死にたい、死ぬ!”なんて言っている人は死なないからね」と上司が言っているのを耳にした。でもどうしても私にはそうは思えない。どうか生きていてほしいと思う。もちろん医療者としてだけれど力になりたいと思う。敬愛する勤務先の医師の「期待はしない、けれど諦めない」という言葉をいつも忘れないでいる。